「だろ?・・・スッゲェ美人だよな・・・百合子の姉さんって・・・
まさかお前の部屋の隣にいるなんて思わなかったな・・・
連れて行かれてビックリだよ・・・」
キャンパスの青々とした芝生の上に寝そべった親友の拓海が、座っている康介の顔を下から覗き込みながらそう言った。
彼は前の日の夜、付き合っている百合子に連れられて凛子の部屋に遊びに行ったのだった。
「そういえば康介、前に言ってたじゃないか・・隣の大学院生がパソコンしてる音が聞こえるほど壁が薄いんだって・・・
彼女、そいつが居なくなった部屋に引っ越してきたんだろ?
もし百合子の姉さんが男を連れ込んだら、聞こえるんじゃないか?アノ時の声が・・・
もしそうだったら俺にも教えてくれよな。
あぁ〜・・いい声で鳴くんだろうなぁ・・・お姉さん・・・スタイルも抜群だし・・
あれでもうすぐバツイチなんて勿体無い話だぜ・・・」
拓海の勝手な言葉を聞きながら、康介はムッとしていた。
・・・お前だって・・百合子と出来てるじゃないか・・・
・・・俺が彼女を昔から好きだって事も知ってたくせに・・・
・・・もう百合子ともヤッちまったんだろ?・・・
康介は隣室から聞こえてきた凛子の悩ましい喘ぎの事を、彼には話すまいと思っていた。
心を許していたはずの親友に出し抜かれたという康介の思いが、彼と拓海の間にいつの間にか亀裂を生じさせていた。
・・・凛子さんの部屋から聞こえてきた事は絶対に拓海には言うもんか・・・
・・・もうこいつを部屋に上げる事もないだろう・・・
・・・アノ声は・・・凛子さんが乱れているアノ声は・・・
・・・俺だけの秘密なんだ・・・
・・・「はぁぁ・・・ダメェ・・焦らさないで・・・欲しい・・・欲しいの・・・」
あの夜、康介の耳にこびり付いた凛子の淫靡な声が、またしても彼を襲う。
隣にいる拓海を一瞥しながら、康介は何とも知れぬ優越感を感じた。
そして、彼女が訪ねてきた時に玄関先に充ちた甘美な香りに、今まさに擽られているような錯覚に陥った。
「ゴメンゴメン・・待ったぁ?・・・
晴美たちと話してて、つい話し込んじゃった・・・
あっ・・康介君もいたんだ。
私のお姉ちゃんの隣の部屋・・康介君のお部屋なんだってね。
全然、知らなかったな・・・
昨日の夜、お姉ちゃんの部屋に遊びに行ったんだよ・・ねっ、拓ちゃん。」
聞こえてきたその声に振り返ると、そこには百合子が立っていた。
風上に立っている彼女から甘い香りが運ばれていた。
康介は目を細めた。
小柄ながらも女性らしい緩やかな身体のラインが眩しく映り込む。
姉の凛子とは違った真っ黒なショートヘアーが靡いてくる風にサラサラと揺れた。
百合子の視線が康介から拓海へと移った。
恥じらいの混じる潤んだ視線が、康介の前を通り抜けていく。
二人は自分達にしか判らない目色で合図を送りあった。
「じゃあ康介・・・俺たちはここで・・・
今から百合子と飯食いに行くんだ・・・また明日な。」
拓海はそう言いながら立ち上がると、手の平でジーンズに付いた芝生をパンパンと掃った。
百合子が近寄り、彼の背中の芝を掃ってやる。
そんな仲睦まじい光景を、康介は羨望の眼差しで見つめた。
二人は手を繋ぐと康介に別れを告げ、中庭の入り口へとゆっくり歩いていく。
百合子が立ち去る間際に康介の方を振り返り、手を振りながら満面の笑みを投げかけた。
「あぁ〜・・チクショウ・・・やっぱり可愛いなぁ・・百合子も・・・」
康介は頭の中で、百合子と姉の凛子を見比べながら大きく溜息をつき、思わずそう呟いていた。
トボトボと家へと帰る康介は何とも知れぬ孤独感に見舞われていた。
駅からの通りを一つ右へと曲がり細い路地に入るとすぐに彼のアパートへと辿り着く。
俯きながら歩いていた康介がふと顔を上げると、凛子の部屋のベランダが目に入った。
夕暮れの赤い日差しに、黄色いカーテンの引かれた窓ガラスがオレンジ色に染まっている。
その眩しい光の最中に凛子の干した洗濯物が見えた。
「わっ・・・凄いな・・・あんなの着けてるのか・・・凛子さん。」
それは凛子の下着だった。
ジーンズやTシャツに混じって彼女の淫靡な下着が干されていたのだ。
黒のお揃いの上下に、紫や純白のパンティ・・・
更には光沢のあるクリーム色のキャミソールが、摘まれた洗濯挟みにぶら下がってユラユラと揺れている。
そのどれもが薄っすらと生地が透けており、繊細な刺繍と細い横紐で形作られていた。
「はぁぁ・・・たまんねえや・・・」

アパート下の細い路地に立ったまま、凛子のベランダを紅潮した顔で見つめている康介の姿を、ちょうど引越しの片付けをしていた凛子が黄色いカーテン越しに室内から覗いていた。
「あっ・・康介君だ。
うふっ・・私の干した洗濯物見てるわ・・・若い男の子にはちょっと刺激が強すぎるかしらね。
でも・・・こんな時間に帰ってくるなんて・・・もしかして彼女いないのかしら・・・
あんなに爽やかで可愛いのに・・・百合子も昨日連れてきたあんなキザな子じゃなくて康介君みたいな男の子と付き合えばいいのに・・・」
凛子は真横の壁に立てかけていた大きな姿見をチラリと見た。
白いタンクトップがノーブラの乳房によってツンと浮き出ている。
脚の付け根まで見えそうなほどのベージュのミニスカートからは、彼女の自慢の白い生脚がスラリと伸びていた。
凛子は鏡を見ながら呟いた。
「ん〜・・きわどい格好ね・・少し康介君に悪戯しちゃおうかしら・・・うふふっ・・・」
彼女の眼差しが妖しく淫靡に光り輝き、大人の女の表情を見せる。
細い指先がベランダに面するサッシを開いた。
・・・うわっ・・・凛子さんだ・・・あんな格好して・・下から見えそうだよ・・・
康介が見つめていたベランダに凛子が現れた。
彼に気付かない振りをしながら彼女は干していた洗濯物を取り込んでいく。
彼女がベランダで動くたびにスカートの裾からチラチラと見える艶かしい太腿が、康介の若い下半身を熱くしていった。
そんな刺激的な光景をぼんやりと虚ろな表情で見つめていた康介に、頭上から声が聞こえてきた。
「康介く〜ん!・・今、帰りなの?
今日やっと荷物が片付いたの。も少しなんだけどね。
康介君に頼みたいこともあるし・・・今晩、ご飯食べに来ない?」
いきなり凛子に声をかけられた康介はハッとした。
いつから彼女は俺に気付いていたのだろうか・・・
ベランダを見上げると端整な顔立ちの若妻が溢れんばかりの笑顔を自分に送っている。
夕焼けに赤く染まった頬に薄っすらと浮かんだ笑窪が百合子そっくりだ。
しかし何かが違う。百合子には感じない大人の女性の妖艶な魅力を彼女は絶え間なく発している。
男の妄想を膨らませる凛子の淫靡な下着は、取り込まれてすでに視界から消えていた。
だが代わりにベランダには凛子本人が立っていた。
スカートがヒラヒラと風に揺れ、彼女の悩ましい下半身がチラリと見える。
夕日に照らされた凛子の顔は、火照っているようにも見えた。
もしかして・・俺は誘惑されているのか・・・
一抹の期待が康介の身体を震わせた。
・・・「いやっ・・・お願い・・いいの・・・そのまま・・・そのまま生で入れ・・あぁぁっ!・・」
男を欲して挿入を促す彼女の欲情した声・・・あの晩の凛子の声が康介の頭の中を駆け巡る。
紅潮していた康介の顔が更に赤みを増していた。
頭上では髪を靡かせた凛子が、返事を促すかのように微笑みながら首を傾げる。
緊張の極みに達した康介は口を開くことさえ出来なかった。
迷いと戸惑いと期待が入り混じる。
本当なのか・・・?
その言葉だけが康介の頭の中を支配していた。
ドキドキと心臓が鼓動を打つのが自分でも聞こえるくらいだ。
どうしよう・・・
そんな思いが一瞬だけ脳裏を翳めた。
しかし次の瞬間、無言の彼は大きく首を縦に振っていた。
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