その日の午後、突然、康介の部屋のチャイムが鳴った。
約束でもしていない限り、日曜日のこの時間に友人が訪ねてくることはない。
彼は反射的に隣に引っ越してきた美しい人妻の顔を思い描いていた。
寝癖のついたボサボサの髪の毛を手櫛で直しながら玄関先へと向かう康介の耳に、ドアの向こうからよく通る女性の声が聞こえてきた。
「あの〜・・・こんにちは〜・・昨日、隣に引っ越してきた者ですけど〜・・・
ご挨拶にお伺いしました〜・・・」
康介の期待は裏切られなかった。
間違いなくあの女性の声だ。
彼は咄嗟に時計を見た。もうすでに午後2時を回ろうとしている。
今朝、康介が盗み聞いたあの会話通り、彼女はあの引越し屋の青年と淫らに身体を交わらせてから帰宅したのであろう。
康介の身体が震えだす。
男と濃厚に一戦を交えた後の女性が、自分の玄関先に立っている。
しかも彼女は言葉では言い表せないほどの美人なのだ。
喉がカラカラになり、返事をすることも出来ない。
顔が激しく紅潮するのが自分でもよく分かった。
康介はドアの覗き穴から外に立っている彼女の姿を見つめた。
今朝、外出したときと同じ白いTシャツにローライズのジーンズ姿だった。
そよ風に靡く長い髪を細い指先で色っぽく掻き上げながら、彼女はドアの方を見つめてにっこりと微笑んでいる。
康介は大きく息を吸い込むと、意を決したようにカチャリと鍵を開けて玄関のドアを開いた。
「あぁ〜、よかった・・・いらっしゃったんですね。
初めまして。昨日、この隣に引っ越してきた木下凛子と申します。
あの・・・これ・・ほんの気持ちなんですけど・・よかったら食べてくださいね。」
甘い女性の香りが、玄関先から吹き込んできて康介の鼻を擽った。
透き通った可愛い声と満ち溢れる笑顔・・・
この目の前に佇む綺麗な女性があんな淫らな声を上げて喘いでいたのか・・・
この女性がついさっきまで引越し屋の青年の男を貪り、情欲の赴くままに快感に身を躍らせていたのだろうか・・・
いや・・・木下・・・?・・・まさか・・・
康介はハッとなった。
やっぱり誰かに似ているかと思ったら、彼女は同級生の百合子と瓜二つなのだ。
もしかしたら・・・
驚きの表情を見せる康介の疑念を振り払うかのように、目の前の凛子が言葉を発した。
「あなた・・・学生さんなの?
ちょうど私の妹と同じくらいの年ね。
私の妹はこの近くのK大学に通ってるのよ・・・」
康介の予想はほぼ間違いなかった。
彼が通っている学校もK大学なのだ。
そして、目の前で爽やかな笑顔を振りまく若妻の顔立ち、目元、透き通るような肌の白さ、笑うと頬にうっすらと浮かぶ笑窪までが同級生の百合子とそっくりなのである。
しかし、康介はその事には触れないでおこうと思った。
昨晩、壁伝いに聞こえた凛子の淫らな大人の女の姿と、妹の百合子の汚れない清純なイメージがどうしても重ならないのだ。
彼は凛子に言った。
「は、初めまして・・・藤田康介です。
そ、そうなんですか・・・じゃあ僕と同じ学校ですね・・・
でも、あんなに生徒いますし・・・
あっ、ありがとうございます・・・じ、じゃあ遠慮なくいただきます・・・」
康介は凛子の顔を真正面から見る事が出来なかった。
彼には凛子とのこの距離さえ刺激的すぎる。
心臓がバクバクと大きな鼓動を打ち、身体中から汗が噴き出した。
凛子の溢れんばかりの艶やかさと美貌に、目が泳いでしまう。
本人を目の前にして、昨日の夜のあの本能的な女の声がチラついてしまうのだ。

凛子はそんな康介を見てクスッと微笑んだ。
その笑みの中に一瞬、妖艶な灯りが灯ったのに康介は気付かなかった。
・・・ウフッ・・・この子・・康介君ってなかなか可愛いじゃない・・・
・・・こんなに緊張して・・・私の胸ばかり見てるわ・・・
・・・この子が昨日ホントに私たちのエッチを聞きながら、一人エッチしてたのかしらね・・・
・・・でも、あの呻き声・・・きっとそうだわ・・・
・・・今度、機会があったら康介君に直接聞いてみちゃおうかしら・・・
「いいえ、どういたしまして。
でも康介君も一人暮らしじゃご飯とか大変でしょ?
お隣同士だし・・・今度、私の部屋に食べにいらっしゃいよ・・・
私も旦那と別居中で一人なのよ・・それにせっかく作っても一人じゃ美味しくないもの・・・
引越しの荷物が落ち着いたら呼んであげるから・・・
私、こう見えても料理には自信があるの。
ね・・・約束よ・・・」
そう言うと凛子はにこやかに彼に手を振りながら出て行った。
・・・あぁ・・・夢みたいだ・・・本当だろうか・・・
康介は玄関先に残った凛子の甘美な残り香を貪るように、大きく息を吸い込みながら彼女との会話を思い出していた。
そして、近いうちに凛子と交わることになるかも知れない・・・
彼女によって生まれて初めて男になれるかも知れない・・・
彼は何故かそう思っていた。
理由は判らないがそれは確信に近かった。
下着姿の凛子が淫靡に迫り、自分の硬く反り返ったペニスを口に含む光景が浮かんでくる。
卑猥な妄想に駆られた康介は、お菓子の箱を抱えたまま、玄関先に呆然と立ち尽くしていた。
彼の若さ溢れる下半身が、熱く滾り始めていた。
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